犬との主従関係って本当に必要?

犬を家族に迎い入れたとき、熱心な飼い主さんほど多くの情報を集め、結果、その情報に振り回されてしまっている、と感じることがあります。

その中でも、飼い主さんを悩ませていると感じるのは、まだまだ根強く残っている「犬とは主従関係を築かなくてはいけない」とか「主従関係を築くことで信頼関係が生まれる」という、主従関係説を元に作られた、犬のしつけに関するもの。
うっかり掴んだ情報が、主従関係から生まれたものだったりすると、飼い主さんはやりたくもないことをしてしまったり、その結果、愛犬との関係が悪くなってしまった‥なんてことにもなってしまいます。

主従関係って、本当に必要なのでしょうか?

愛犬と仲良く暮らしたと思っている、飼い主さんのお役にたてたら嬉しいです。

もくじ

主従関係って何?

主従関係とは、強いものに弱いものが従う関係という意味。

つまり、「強いもの=飼い主さん」に「弱いもの=犬」が従う関係を指しているのですが、これを聞いて、あなたは大切な愛犬と主従関係を築きたいと思いますか?また「主従関係を築くことで、信頼関係が生まれる??」本当にそう思いますか?

「強いものは弱いものを守る!」のが、本当ではないでしょうか。そして、本当に強いものは、力や恐怖で相手を制するようなことは、しないのではないでしょうか。人と暮らしてくれている犬たちは、飼い主さんの気持ちひとつで、その暮らしが大きく左右します。大切な愛犬を守ってあげるのが、本当なのだと思います。

では何故、犬との間に主従関係が必要だという説が生まれたのでしょうか。

オオカミの群れは主従関係?

犬のしつけやトレーニングを考えるとき、必ずといっていいほど参考にされる、オオカミの群れ。最近の研究では、犬とオオカミはDNA的には、99.96%一致していると言われています。

そして、オオカミの群れには「アルファ」というリーダーが存在し、階級や順位があると言われ、オオカミを祖先に持つ犬との暮らしにおいても、「飼い主が犬のリーダーにならなくてはいけない」ということになったのです。しかし‥・

オオカミの群れは主従関係ではなく、家族だった!

考えてみれば、当たり前のことなのです。オオカミに限らず、命あるものがひとりで生きていくことなんてできません。

そして、オオカミは群れで狩りを行う動物です。オオカミ一頭で仕留められる獲物は、せいぜいウサギ一匹‥。それでは、生きていくための食料としては全然足りないのです。オオカミは群れで生活し、みんなで協力して獲物を捕り、分け合って生きています。

そして、そんな協力し合う群れには、力や恐怖で押さえ込むようなリーダーはいらないのです。そんなことをしていたら、その群れは滅びてしまいます。

アルファオオカミとは?

オオカミの群れは家族だったことから、いわゆるアルファと呼ばれるオオカミは、お父さんオオカミです。
主従関係説で言われているような、力や恐怖で押さえ込む存在ではなく、その性質は

「自分がなにをすべきか、群れにとって何がベストかを知り、それを心地良いと感じ、群れを落ち着かせる能力」

それがアルファ、お父さんオオカミです。人間社会の家族と変わらないですね。力や恐怖で押さえ込むお父さんには誰も付いて行かないですし、その家族は崩壊してしまうでしょう。そして犬だって、力や恐怖で押さえ込むような飼い主さんとは暮らしたくないのではないでしょうか  。もしもあなたが犬だったら、どんな飼い主さんと暮らしたいですか?

では何故、オオカミに階級制度はあるという説が生まれたのでしょうか。

主従関係は、どうして生まれた?

人と犬が当たり前のように一緒に暮らすようになった頃から、犬への関心は今と変わらず高いものでした。

そんな中、犬の祖先がほぼほぼオオカミだとわかった時代に、オオカミの群れを観察しよう!ということになり、広大な敷地に柵を作って、その中にランダムにオオカミが入れられました。そして、その観察から「オオカミの群れには階級制度がある!」という考えが生まれました。その観察を元に書かれた本が、

  • 1991年「オオカミと生きる」byヴェルナー・フロイント(ドイツ)
  • 1995年「オオカミ」byエリック・ツィーメン(スウェーデン)

です。しかしながら後に、この観察はオオカミにとって、非常にストレスの高い状況で行われていたということがわかりました。

間違った観察から生まれた、主従関係

この観察が間違ってしまったポイントは、柵の中に集められたオオカミが、ランダムに入れられたオオカミだったという点です。

つまり、人間社会でいうところの、会社組織みたいなものだったんです。会社組織は、決定権を持つ人がいないとうまく事が運ばないということで、社長・部長・課長‥と役職が設けられています。このように、ランダムに選ばれたオオカミの群れでは、会社組織と同じように、階級を設ける必要が生まれた、ということだったんです。

考えてみたら、ずっと会社で暮らすことになったら、ストレスですよね。
人の都合で囲いの中に入れられた、家族ではないオオカミの群れの観察から、生まれたのが階級制度。
そこから生まれたのが、犬との暮らしには主従関係が必要だ!ということでした。

では、オオカミが家族だという観察は、どうやって行われたのでしょうか。

オオカミの群れは主従関係ではなく、家族だった!

イエロストーン国立公園でのオオカミの観察

この観察は、アメリカのイエローストーン国立公園で、自然の中で暮らすオオカミの群れで行われました。

イエローストーン国立公園は一度、オオカミを絶滅させてしまった歴史があり、オオカミがいなくなってしまった自然は、草食動物によって侵され、緑が減り、水が汚れ、自然の生態系が崩れてしまったのです。
そこで、1995年にカナダからオオカミを連れてきて、イエロストーン公園に放ちました。すると、生態系が整っていき、イエローストーン国立公園の美しさが蘇っていきました。このオオカミの観察について書かれている本が、

  • 「Beyond Words」byカール・サフィナ(2015年)

です。本当のオオカミの群れは家族で、アルファが力や恐怖心で群れを支配することなどなかった、と書かれています。

エルズミーア島でのオオカミの観察

この観察は、カナダのエルズミーア島で暮らす、野生オオカミの群れで行われました。

この観察でも、オオカミの群れは家族だということ。そして、家族を守るのはリーダーオオカミではなく、親オオカミであること。子オオカミが順位を巡って親オオカミに戦いを挑むことはないこと。平和を維持するための階級制など必要ないと言っています。

  • 「エルズミーア島のオオカミ(DVD)」byデビッド・ミーチ博士(1989年)

また、エルズミーア島は、限られた期間しか人間が踏み入れることができないという、極寒の地。人間が関与することが、簡単ではない環境で暮らすオオカミたちの表情は、なんて柔らかいんだと感動してしまいました。

さようなら、主従関係

これらの観察から、人の手が加わらない、自然のオオカミの群れを観察すれば、オオカミの群れは家族だった!ということがわかりました。

皆さんの家族に、主従関係はありますか?ないですよね。と言うことは、家族として迎い入れた愛犬とも、主従関係は必要ない!ということです。これまでの主従関係を元に作られた「おかしなしつけ」も考え直すときがきています。

これまで紹介して本は、なかなか手に入らないかと思いますので、こちらも紹介しておきます。

  • 「犬はあなたをこう見ている」byジョーン・ブラッドショー(2016年)

ここにも、自然のオオカミの観察のことが書かれています。興味がありましたら読んでみてくださいね。

最後に

犬のしつけやトレーニングを考えるとき、必ずといっていいほど、目安にされるオオカミに群れ。
しかし、その群れは、人の手が加わらない、自然の群れを観察すれば、家族だった!ということがわかりました。
そして、いわるゆリーダーだといわれているオオカミも、ただのお父さんオオカミだということ。
力や恐怖で押え付ける必要などないのです。

主従関係を元に考えられた「おかしな犬のしつけ」は全て、考え方を改めなくてはいけないときなのです。

もしも、これまで厳しいしつけをしてしまったとしても、間違いに気づき、愛を持って接することで、あなたの愛犬は許してくれます。少し時間がかかったとしても、間違っていたことを愛犬に伝え「これから仲良くやっていこう!」と、やり直せば良いのです。

そしてまた、この事実を知らないドッグトレーナーが多いことも事実です。そうしたドッグトレーナーの被害にあってしまわないためにも、「自分は愛犬とどんな風に付き合いたいのか?」と、確認してみてください。
犬たちに寄り添い、人として自分の胸に手を当てて心の声を聞いてみれば、その答えが見つかるはずです。

愛犬に寄り添える飼い主さんになっちゃってください!

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